第6章 夢遊病
更に移ろう季節は無情にも何も変わることなく進むだけ。
外で雪がちらつこうとも、どこかにいるあの人の気配を追っては、かくれんぼのように消えてしまう。
もう、会えないかもしれないと思えば、凍てつく風が心の襖を引き裂くように胸が痛い。
どこかで見ているのならば、会ってまたお話がしたい。
願ってはみるものも、この時はもう半ばあきらめているようなものだった。
だって…。
「すまん。また、訪ねてしまった」
「また、ここらで”鬼”が出るのですか?」
「あぁ…。冬は曇る日が多いからか、よく話を聞いてな」
「ご苦労様です」
「いや…」
あれから悲鳴嶼は、月に一度の頻度で訪ねてくるようになっていた。
それは単に、鬼の気配がここらあたりで頻発しているからだということだ。
すなわち、どこかでまだ、わたしの事を見守ってくれているのかもしれない。
そう思えど、この人が家を訪ねてくる以上、会うことは叶わぬのだと思わざるを得ない。
「いつも訪ねてきてみれば一人だが、他に誰もいないのか?」
「いえ…。父がおります。ただ、あまり家に帰ってくることはありません」
「そうか…。夜には鬼が出る。私はここを警備することが多い。
先日渡した藤の香は必ず炊いておきなさい」
「ありがとうございます」
いつも一人でいるわたしの事を気にかけてこうして訪ねてきてはひとつふたつ物を話してくれることも、
身を案じて藤の香を渡してくださるのにも感謝している。
だけど、
「悲鳴嶼様によくしていただいても、あなた方の組織に入るつもりはありません。
もしそのようなつもりで来てくださるのなら、お断りしたいのです」
「そのつもりはない。ただ、女子一人、広い屋敷に一人だと、いつ鬼が来てもおかしくないだろう」
「…。」
おそらく、その鬼とやらに襲われることはないだろう。
そう思っていたとしても、言ってしまえばややこしいことになる。
わたしだって、まだ、彼が本当に悲鳴嶼様と敵対する”鬼”という物の怪なのかはわからない。
何も、言わずにこのままやり過ごしていた方がいいのだろうと思った。
「気にかけていただいてありがとうございます」