第4章 その女、現か幻か
「わたしは剣を握ることができないのです。この刀がもし、わたしを本当に待っていたとしても、人を守るために他人を傷つけることは出来ない。」
彼女の洞察力なのだろうか。今まさに己が言うまいか悩んでいたことを先に答えられてしまった。
「親切にしていただいたのに申し訳ございません。これは丁重に扱わせていただきますので、今日はもうお引き取り願います。」
深々と頭を下げ、女は来た道を帰っていった。
痛々し気な後ろ姿は小さくなっていくばかり。
引き留める言葉もとうとう出ず、角を曲がっていって見えなくなった後も、その姿を見るように目が離せなかった。
女も男も互いに名を語らず、素性も知らぬまま。
だた、悲鳴嶼の胸の奥の方で、思い出す度にちくりと痛んでは、あの女はどうしたのだろうかと出会ったあの場所の方角を見つめるようになっていた。