第1章 独り言
都の端の北の鬼門の側の邸宅。
「なぁ、龍光…古都の方に札師がいるとか。
お前は知ってるか?」
青年が何もない空中に向かって言葉をかける。
はたから見ればただの独り言。
「おい、斎がまた独りで喋ってるぞ」
「モノ憑きだって有名じゃないか」
「近寄ると喰われるそうだ」
青年が独りで話すのはよく有る光景らしい。
「……」
通り過ぎてゆく人を、青年は好奇の眼で追いながら笑っている。
笑われ忌みられているのは自分なのに、笑っている。
「そうか…
なぁ、お前達、暇ならちょっと探って見てくれないか?」
庭の茂みや、足元を優しい瞳で見て尋ねる。
「……助かる。頼んだよ」
青年に見えていた、小さな鬼や物の怪達は小さく頷いて散らばっていった。