第2章 本編 第3章 天命、再びと第4章 一宿一飯の間幕
そして、煙の中から手が伸びて来て、福沢の手を掴んだ
突如の事に、警戒はするが、"誰か"等言わずとも分かっている
福沢は抵抗することもなく、黙ったまま、されるがままに握られた
そして、煙が晴れると真っ直ぐに伸びた赤い髪が顔を覗かせる
それを目にした福沢は思わず目を見張らせていると、目前の者が口を開いた
「幸介……克巳、優……真嗣、咲楽」
「作……」
譫言のように、誰かの名を呟きながら手を強く握る
「お願いだ……俺を、俺を置いていかないでくれよ……」
差し詰め、その人物と間違っているのだろうが……
「俺を、そっちに、連れてってくれ……! 一緒に行こう……な、」
その手の強さは必死さを物語っていたーー
「な……」
その必死さに、福沢はどう対応すれば善いのか判らなかった、
そして、戸惑いを隠せぬまま、とりあえず握られた手の力を込めた
すると、それに応じてか……不意に握られていた力が弱まり、次第に安心したのか、微笑むと糸が切れたかのように福沢の方へ倒れ込む
咄嗟に身体を支えた福沢は息を吐いて、徐に握られた手を優しく離す
「"徳冨もまた、迷い子"……か、」
そう呟くと共に福沢は徳冨を寝床まで移動させ、吹っ飛ばされた布団を手にすると、優しく掛ける
そして、先刻の表情とは一変、静かに寝息を立てて穏やかな表情を浮かべた徳冨を一瞥すると踵を返し、起こさぬように部屋を出て行った