第11章 本編 第20章 花と紅葉、雪と金色
「これで……ーー」
その言葉と共に甲高い音が痛いくらいに鼓膜を響かせた
「どうした、徳冨」
胸が騒めいた福沢は電話越しに居るであろう徳冨に声を掛けるが、応答が無かった
「おいっ、徳冨っ! どうしたっ、返事をしろっ! 徳冨!」
声を張り上げて安否を確認するが、矢張り、徳冨の声は聞こえてこない
それがより、先刻の音は徳富が携帯電話を落としたものであるということを決定づけた福沢は状況が芳しくない方向へ進んでいることを悟り、念の為に、と携帯電話を開いたまま、懐へと仕舞うと足早に社長室を出る
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そして、事務所の扉を開いて入室すると其処に居たのは事務整理をしていたのか、机に置いてある資料の束と電子機器に向き合っていた谷崎と田口、更には、椅子に座り、退屈そうに頭の後ろで手を組んでいた太宰であった
「社長、」
谷崎と田口は福沢の登場に驚きながら、資料の束からまたは電子機器から顔を覗かせ、太宰は顔だけを彼の方へと向ける
「救援へ向かった国木田達がポートマフィアと交戦中に組合の奇襲を受けたと徳冨から連絡があった」
「国木田さん、が……」
神妙な面持ちで事の重要さを伝えた福沢は田口の問いに頷く、谷崎は目を見開かせ、太宰は眉を顰める
「今から徳冨達を迎えに行く、田口君は徳冨達の場所の特定を、谷崎は与謝野君に伝えよ、怪我人を運ぶ故、治療の準備を頼む、と……太宰は私と共に来い」
「判りました、」
「わ、私も……! 国木田さんを……」
普段の田口にしては珍しく、勢いよく椅子から立ち上がり、いち早く自ら、同行を名乗り出た
普段の田口達の間柄を知っている福沢はそれを汲み取った上で頷いた
「承知した……私達は先に現場へ向かう、田口君は徳冨達の詳細な場所を特定次第連絡を……谷崎は田口君についてあげてくれ」
「判りました、」
「……未だ、組合の者が居るかもしれぬ故、くれぐれも道中には気を付けよ」
的確な指示を聞き入れる田口と谷崎の姿を確認した後にて踵を返した福沢は頷いた太宰を引き連れて、先に事務所を出る
そして、田口は谷崎と共に後に合流する事とした、また、彼も指示に従い、与謝野が居るであろう医務室へと走った――