第2章 本編 第3章 天命、再びと第4章 一宿一飯の間幕
ーー朝が訪れた
結局、徳冨はそのまま眠りについてしまい、国木田に何をされても起きることはなかった
国木田もその強情さに起こすのを諦め、寝かせる事にしたのだ
そのため、服装も全て昨日のまま、しかし、違うのはその姿だった
そんな中、玄関の扉が突如、開いた
徐に入って来たのは武装探偵社の社長、福沢だった
福沢は徳冨を起こさぬように草履を脱ぎ、静かに歩くと真っ先に台所へ向かい、持参した袋に詰められた荷を下ろす
そして、荷を広げると沢山の食材を徐に並べ始めた
更に、調理場に備わっている器具を取り出すと持ってきた食材を手にして俎板(まないた)の上で包丁を使用し、斬り始めた
食材を斬る音、煮込む音、炒める音
様々な生活音が聞こえる中でも徳冨は疲れているのか、寝室からは一切の物音はしなかった
静かな空間の中で暫し響いていた音は、テーブルの上に並べられた皿で事切れた
「これで善い」
どこか満足げに呟く福沢の前には"日本人の朝食"という言葉が似合うくらいに和物の料理が揃えられていた
「あとは徳冨が起きるのみか……」
食べるだろうか……一抹の不安があるのか、福沢の表情がやや曇る
こうした理由ーーそれは徳冨について、報告してきた太宰によると今まで野宿生活が多いと聞いていたため、何かと不便だろうと援助したのだ
嫌われていると知っていながらも、自らーー
当然、この事は誰にも言っていない
小さく息を吐きながら、様子を見に行く為に徳冨が寝ているであろう寝室へ歩みを進める
顔を覗かせると、そこには真ん中に膨らみがある布団があった
恐らく、あそこに徳冨が居るのだろう
姿は見えずともゆっくり休んでいるであろう徳冨を起こすことを躊躇った福沢は置き手紙を書くことにした