第10章 本編 第17章 海の見える丘に咲くミモザの木の下で君と
『結構だ、』
『え~何でよ、織田作ぅ、』
織田に即答で断られ、口元を尖らせた太宰へ視線を向けた後に酒を呷った彼は冷静に言葉を返した
『俺がお前の家に行けば蘆花に怪しまれるだろう』
織田の言葉に釣られるように冷静となった太宰は顎に手を当てて熟考する
『……まぁ、それもそうだね、蘆花ちゃんも織田作が大好きな子だしね、心配で織田作についてきちゃいそうだ……』
『……そうだ、何度も言うが、出来れば蘆花にこの事は知られたくない……確かに何時かはバレるかもしれない、だが、それは今じゃない……だから、蘆花の前では先刻の話は絶対にするな、善いな』
その言葉に太宰は笑みを浮かべると大きく頷いた
『嗚呼、勿論判っているよ、織田作』
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「……でも、蘆花ちゃんが織田作の性別に気付かない振りが出来た、なんて……本当に織田作はーー」
そう呟いた太宰は暫しの後に柔らかく笑んだ、しかし、その笑みは何処か切なさを含んだものであった
「ねぇ……織田作、」
太宰は背面の墓石を見つめた後に体重を預けるように凭れながら言葉を紡いだ
「今回は君との約束を破ってしまったけれど……あの約束は……」
『ーー……お前が、俺の代わりに……この世界で、幸せになる蘆花を……見届けてやってくれ』
「君の友として誓ったあの約束だけは、絶対に守ってみせるよ」
徐に瞼を開けた太宰は微笑んだ、その笑みは先刻とは違う……憂いのない晴れやかなものであった
「じゃ、織田作……またね、」
そして、その言葉と共に墓石から立ち上がった太宰は外套に付着した埃を払った後にもう一度、墓石を見つめて、"彼"に手を振るとその場所を、後にした