第10章 本編 第17章 海の見える丘に咲くミモザの木の下で君と
徳冨が居なくなった織田作之助の墓石には太宰の姿があった
太宰は織田作之助の墓の正面……ではなく、背面に凭れる様にして、腰を下ろしていた彼はその友へ向けて小さく言葉を発した
「ごめんね、織田作……私は君との約束を破ってしまったよ
私も……話す心算は無かったのだけれども……」
瞼を閉じた太宰が脳裏に過ったのは真実を包み隠さず話して欲しいと言う徳冨の切望を宿した瞳であった
「あの瞳で見つめられたら……織田作も、きっと話していた筈だよね……
織田作にとって、蘆花ちゃんは……唯一無二の存在だったんだから」
実の処、太宰が先刻徳冨に話したあの話には続きがあった
『俺はあいつを、不安にさせたくはない……俺が傍に居れる間だけでも、少しでも……俺があいつの安心させてやれる場所になりたい』
『ふふ、そうかい』
笑みを浮かべる太宰に織田は首を捻りながら彼に尋ねた
『同性の奴にこんなことを思うのは変か、』
『いや、織田作らしいとても素敵な考えだと思うよ、』
織田に向けて表情を変えずに首を横へと振った太宰に彼も柔らかく笑むと手にしていた酒を仰いだ
『だけど、織田作は蘆花ちゃんの本当の保護者みたいだねぇ』
『……俺は蘆花の親ではないが、あいつとは……旧い付き合いだからな』
『……本当に、織田作は蘆花ちゃんが大切なのだね』
柔らかい笑みと共に溢す織田に太宰も目を細めて言葉を返した、すると彼は目を丸くしたが、それもまた直ぐに変化し、口元に緩く笑みを作ると徐に言葉を発した
『嗚呼……そうだな、蘆花は俺にとって、最も大切な奴だ』
『ふふっ、そっか……じゃあ、もし、蘆花ちゃんにバレそうになったら家においでよ、私が介抱してあげるからさ』
色々とね、と含みのある笑みを浮かべる太宰に織田は少し眉を潜める