第4章 体育祭、それぞれの準備
(心操くんみたいに、宣戦布告するつもりは毛頭なかったけど…)
私も頑張るよって、拳を作りたかったな。
そう言えば、心操くんの手―――…
「…い……、オイッ!!」
「!、わっ」
「聞いてんのかこら」
「えっ!な、何を…?」
「……」
「かっちゃん?」
あ、今凄くイラッとした顔をされた。
「余計なこと考えてんだろ」
「えっ」
思わずドキッとしてしまった。
そんな私の反応を見て、かっちゃんは益々イラッとした顔で「テメェも大概クソナードだかんな」とぼそりと言われた。
え?私がクソナード…?!
思わぬワードに気を取られていると、
「……来いや」
「え?」
「俺ン家」
「な、なんで?」
「家庭科の教科書、貸したる」
帰り道、ちょっと寄るぐれぇで済むだろ、と。あぁ、明日の1限は家庭科だという話を覚えていてくれたのか。
「お前、相変わらず朝遅刻ギリギリなんだろ」
「え!?なん、なんで知って…!!」
「おばさんから聞いた」
正しくはババァがおばさんから聞いた、とのこと。お、お母さん達、仲良いな…じゃなくて!
…なんだろう。
何か、居心地が 変だ。
かっちゃんが、優しい。
いや、優しくないし、ぶっきらぼうだけど。
普通に振る舞おうとしてくれてるのがわかる。
……多分、多分だけど、かっちゃんが困ってる。
それは私を“モブ、ザコ”と間接的に言ってしまったからなのか。あるいは、普段繋がることのない手が繋がっているからなのか。
どちらにせよ、かっちゃんを困らせているのが今の私なら、もう…………
「――――、いいや」
「あ?」
「だから、いいの。大丈夫!」
自分でも何が大丈夫なのかわからないが。
何か、もう。
かっちゃんに気を使わせるこの空気も、この自意識過剰な気持ちも。
……かっちゃんの大きくなった、この手も。
この感じた違和感を紐解く勇気は、今の私にはない。きっと、色々と耐えられない。
それに――――――、
「私、用事あるし!
これからバイトなの!」
「は?」
―――タイムリミット、だ。