第4章 体育祭、それぞれの準備
「ほら、前に言ったじゃん!
スーパー辞めて、新しくバイト始めたって」
私はすぐ近くにあるファミレスを指差し「あそこでバイト」と言うと、かっちゃんが眉をひそめた
「アザミ、テメェ受験生だろ。そんな余裕あんのかよ」
「う"っ」
「う"とか言ってんじゃねェ」
「ほ、ほら!受験勉強の合間?息抜き?にね!2時間しかバイトしないし!学生の今しか経験できないこともあるしさ!
では、行ってきまーす!」
私はスッとかっちゃんの手から抜け出した。
かっちゃんと繋いでいた手でバイバイと手を振る。
この場から立ち去れてホッと一安心しつつも、寂しく感じるのは何故だろう?
(でも、これでよかった)
かっちゃんにこの手を振り解かれていたら、きっとメンタルがやられていただろう。本当は私からだって解きたくなかったけれど、これからバイトがある。致し方無い。
「おい!待っ」
かっちゃんが何か言いたげだ
だけど、今は言わせてあげない
「あ、そうだ!
私、経営科だから
ヒーロー科に敵わないけど!
―――私なりに、モブでも頑張るよ!」
いや、正しくはモブになれるように頑張るよ。かな?
私なりの、宣戦布告だ
「おいっ!アザミッ」
「じゃ、まったねー!」
かっちゃんを困らせたくない
私はいつもの“年上の幼馴染”に、まだ縋っていたい
『上に上がりゃ、関係ねえ』
その台詞を言い放ったかっちゃん、カッコ良かったよ
そんなかっちゃんの隣…と、まではいかなくても。せめて幼馴染として、もう少し一緒に居させてね
*
PM8:00
日が沈み、夜空にはちらほら星が見え隠れする
「お疲れ様でした!」
平日とはいえ、夕飯時のファミレスはなかなかの忙しさだったなあ
バイトを終え、急いで着替える。
鞄と、学生服の入った手提げ袋を担ぐ私の姿は
「…よし!走るぞ!」
ジャージ姿だ
あっ、雄英の体育着は目立っちゃうから、私物のね!
宣戦布告した
あとは体育祭に向けて頑張るだけだ
青春臭いかな、なんて思うけど。私だって体育祭に向けて募らせてきた思いがある
従業員専用出入口である、お店の裏口の戸に手を掛ける
「1、2、3……プルスウルトラっ!!」
気合いを入れて、勢いよく飛び出した
「―――よお」