第4章 体育祭、それぞれの準備
「普通科とか他の科って。
ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。
知ってた?」
ヒーロー科…ましてや1年生のヒーロー科が知る由もない事を突然告げられ、一瞬何のことかと爆豪は頭に疑問符が浮かべる。
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆も、また然りらしいよ………
敵情視察?
少なくとも普通科―――オレは、調子のってっと、足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつーーー
宣戦布告しに来たつもり」
「……」
周囲を囲む生徒達から「A組調子づいちゃってんな」「本番で恥ずかしい事んなっぞ」等と聞こえてくるも、二人の耳には一切届いていないようだった。
「…(かっちゃん…?)」
アザミは爆豪を覗き見るようにそっと様子を伺う。そろそろ「吠えてろ」「やってみろや」とか、挑発や暴言が飛び出すのではないのかと。
しかし、そんな姿の爆豪はなかった。
相手を睨みつけもせず、珍しく眉間に皺がよっていない。何か考えているようで大人しい爆豪が物珍しくて、思わず見入ってしまった。
グイッ
「わ…?!」
再び無言で爆豪に手を引かれる。
しかし先程のとは全く違う。荒々しさはなく、優しく導くように。指と指を絡め、まるで絶対に離れないようにギュッと握る。所謂恋人繋ぎだ。
嘗てこんな風に手を握られたことなどあっただろうか。
「か、かっちゃ…!」
顔が熱い。熱を帯びていく。
色々な意味で動揺して、声がうわずる。
そんなアザミや周囲も気に留めず爆豪はズンズン歩き出す。
「待てコラ、どうしてくれんだ!
おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!」
切島が慌てて爆豪を引き止める。
「関係ねえよ………
上に上がりゃ、関係ねえ」
―――爆豪の目は。
やっぱり鋭いけれど、見つめる先は遥か彼方で。
その闘志を燃やす赤い瞳に、無意識に見惚れた。
「帰んぞ」
「あ…」
アザミは心操の横を通る際、振り返るも何も言えずそのまま通り過ぎた。
アザミと爆豪が取り残したクラスメート、切島や上鳴達の「く…!シンプルで男らしいじゃねえか」「騙されんな!無駄に敵増やしただけだぞ!」と、会話が微かに聞こえた。