第3章 《僕》のオリジン
『頑張ってね』
(雄英高校に行きたいとデクくんが言ったあの日。私は、ああ言うしかなかった…っ)
他に、何と言えばよかったのだろう。
『アザミちゃん…ッ!!
ありがと"ぉ"…ッ!!!』
彼は泣き虫だから、泣く姿を見るのは珍しい事ではなかった。しかし、いつもと違ったのはわかる。
大きな目から大粒の涙をボロボロと溢すも、とても嬉しそうに―――だけど切なそうに。
そんな緑谷の姿に、アザミの胸の奥はギュッと締め付けられた。
(…私が、デクくんを傷つけたのかな…ッ)
アザミは海浜公園に着き、辺りを見渡す。
「はぁ…はあっ…!」
周辺には街灯もなく、月明かり照らされるのはゴミの山。そして高く積まれたゴミ山のせいで海は見えないのに、さざ波の音だけが聞こえる。
この不気味さに負けぬよう、震えながらもアザミは声を発せずにはいられなかった。
「誰か、いる…?」
こんな劣悪な場所に、人が足を運ぶ訳がない。
「…居るわけ、ない、よね…」
こんな所に一人で居るのは怖い。
アザミは踵を返そうとゴミ山に背を向け―――――、
『あのゴミだだらけの海浜公園に人間がいるんだよ』
アザミが思い出したのはとある仲間内から聞いた台詞と、
『出久がね、トレーニングしてるみたいなの。
海浜公園あたりで』
緑谷の母の、言葉だった。
「誰か、いないの…?!」
アザミは踵を返そうとした足に個性を発動させる。不安定に積み上げられたゴミ山の上を人間離れした動きでひょいひょいっと乗り越えていく。
「…本当に、誰もいないの?!
居ない、よね………デクくんっ!」
もしも彼がここに居るのなら、ひとりに放ってなんておけるものか。
「デクくんっ、居るの…?!」
いつも独りで頑張っている彼の、怯え縮こまっている背中が脳裏に浮かぶ。
「………デクくん!どこ?!」
緑谷を助けたい。
アザミは強くそう思った。
(デクくんは知らないだろうけど……っ)
泣いてるデクくんを慰めたり、かっちゃんから守ったりしてるのは間違いなく私だけど、
―――――本当は、私がデクくんに励まされてる。