第6章 体育祭、それぞれの想い
そう感じると同時に、アザミは岩化した男子生徒に飛びついた。
ガッ
鋭い爪を硬い岩肌の割れ目に食い込ませる。
「しがみつけた!けど…わ、わ、わっ!?」
辛うじて出来たものの、彼の歩む振動に今にも振り落とされそうになる。
何故ならアザミは猫の姿。軽い身体は簡単に吹き飛ばされそうになる。
「私は、越えられない…ッ」
自分一人ではこの地雷原を乗り越える事が出来ない。そう悟ったアザミはこの岩化した男子生徒に便乗して地雷原を切り抜ける作戦に出ることにした。
「ダメ、だった、なぁ…」
自分なりに頑張ってきたのに。自分一人の力では乗り越えられない現実を突きつけられた。
「……場合い、じゃ、…のに、な」
泣いてる場合ではないのに、涙が止まらない。
努力が足りなかった事、才能がなかった事が悔しくて仕方ない。
こんな自分を変えられるのではないかと。こんな自分を好きになれるのではないかと、期待していた。
思い描いてた未来に少しも近づけていなくて、格好悪い自分に失望する。
「それでも…ッッ!!!」
それでも、諦められないのは何故だろう。
「なんで、こんな時に…っ!」
幼馴染のデクくんやかっちゃん、同級生のミリオの顔が思い浮かぶんだろう。
《防御と妨害を繰り出す岩化の男子生徒ォー!!最後の関門の地雷原を難なくクリア〜〜〜〜〜!!》
「今だ…っ!」
―――――POOOOOM!!!
プレゼント・マイクの司会を合図にアザミは猫の身体から本来の姿に変化する。
《何だ?!今男子生徒から何か飛び出したぞ?!》
「はあ…はあっ!!」
アザミは力を振り絞り個性で身体能力を底上げし、ラストスパートを駆ける。目にも止まらぬ速さで何人もの生徒をどんどん追い越していく。
(…こんな事して、ズルいって言われちゃうかな。デクくんやかっちゃん、ミリオに呆れられちゃうかなっ…)
「……他の人を、蹴落としても…それでも、
それでも、私はっ……!!」
勝ちに、出たいんだ
「…なりふり構ってッ、られるかあっ!!」
思い描いていた理想の自分も、勝利の仕方も。
涙と汗と共に拭い捨て、アザミはスタジアムへ――――。