第6章 体育祭、それぞれの想い
「…たすけて」
わかってる、誰も助けてなんてくれない。
アザミの目に映るのは模擬市街地に現れる仮想敵と、それを倒すヒーローを志す受験生達だけだ。
大好きなヒーローがいなくなっても、夢がなくなっても。残酷な日々が続いていく現実が待っている。
だから、アザミはこの気持ちと思考回路に蓋をした。
「…やーめた」
どうしたら、もう傷つかなくて済むだろう。生きやすくなるのだろう。要領良く生きていきたい。
こんな想いはもう、二度としたくない。
アザミはくるりと踵を返し、試験会場を抜け出した。仮想敵と受験生達を置いて。大好きだったモノと、夢を捨てて――――
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「久しぶりだね」
まさかこんな形で再会するとは。
アザミは冷汗を額に浮かべるも、不安を押し込め笑顔を作る。彼女の視線の先は…
《さぁ、いきなり障害物だ!!
まずは手始め…
第一関門、ロボ・インフェルノ!!》
雄英高校入試の仮想敵達だった。
その辺の建物より遥かに大きい仮想敵達がアザミの前に立ちはだかる。
「まじかよ!ヒーロー科あんあんと戦ったの?!」
「つーかロボット多すぎて通れねぇ!」
《おおっと!ヒーロー科は巨大仮想敵もものともしねぇな!!
やっぱ他の科は流石にキチィか?!
経営科の先頭女子、不安気で震えてんぞォーーーー!!!》
ヒーロー科以外の生徒達は初めて目にする仮想敵に青ざめる。しかし例外な生徒が1人、それは…
「不安気って、私のこと?」
アザミは個性を発動させ仮想敵の側面を颯爽と走り抜く。そしてあっという間にてっぺんまで登り、飛び越えた。
「こんなドンくさい鉄の塊になんて捕まらないっ!」
アザミは体の神経や筋肉を猫のモノに変化させ、また壁を登りやすくするため手足に肉球と鋭い爪を成形させた。
「不安気だったのは、仮想敵が怖いからじゃない」
初めて仮想敵を目の前にした、あの日――――大好きなヒーローも夢も全部失った。
仮想敵を見て、あの時の絶望や恐怖が蘇るのではないかと思ったからだ。しかし、そんな心配は無用だった。
「……武者震いだよ」