第6章 体育祭、それぞれの想い
「私、嬉しいんだ!
自分の個性がやっと認められそうで。頑張ったことが、報われそうで…!」
「アザミちゃん…」
「そーかよ」
「だからさっ!ヒーロー科受かったら、また3人で帰りながらお祝いしてねっ!」
美しい夕日の光に包まれ、それぞれの想いを胸に下校した色葉散る暮の秋。
これが中学時代の―――――いや、彼らが3人で下校する最後となった。
アザミは浮かれていた。
昔は悩んでいた個性が、今ではヒーロー向きと先生からお墨付きを貰い、成績も鰻上がり。“雄英高に入学する”と、誰もが…アザミ自身すら信じて疑わなかった。
入試日の、あのニュースを見るまでは。
「殉職した………?」
2月26日。
雄英高校入学試の、実技試験直前。
緊張を解すために覗いたネットニュース。アザミが大好きなヒーローの訃報が、目を凝らさなければ見落としてしまうぐらい小さな小さな記事となっていた。
ヒーロー活動中、敵の攻撃が致命傷だったようだ。それ以上のことは分からなかったがアザミの頭を真っ白にさせるにはそれだけで十分だった。
《ハイ、スタート!走れ走れぇ!!
もう賽は投げられてんぞ!!?》
アナウンスの声量がビリビリと耳に響き現実へ引き戻される。
受験生達は慌てて一斉に走り出す。模擬市街地に潜む仮想敵のロボットを倒し、ポイントを稼ぐためだ。そんな中アザミは入口にひとりぽつんと取り残される。
「…あ、えっ、実技試験、始まっちゃった…!?」
何も考えたくない。
そう思うものの、他の受験生達に後れを取るわけにはいかない。アザミは鉛のように重い足を動かした。
「…だ、大丈夫!
私の個性“猫”を使えば敵が何処にいるかも分かるし、脚力を底上げすれば倒せるはず…!」
アザミは個性を発動させ、次々に仮想敵を倒していく。個性が上手く使えなくて悩んでいたあの頃が嘘のようだ。
「うんっ、すっごく調子がいい」
しかし、ロボットの無機質な破壊音がやけに耳に残るのはなぜだろう。
倒していく度に言いようのない虚しさがどんどん募っていく。ポイントが加算される度にアザミの大切にしていた何かが削り取られていく、そんな気がした。