第6章 体育祭、それぞれの想い
アザミが個性をきちんとコントロールできるようになったのは小学校高学年の頃だった。
中学生になると個性のコントロールも上手になり、気づけば校内で注目の的になっていた。
「猫柳、雄英に志望してみないか?」
「雄英?」
「お前の個性はヒーローに向いてるし、模試もなんとかB判定だしな」
中学3年生の秋。担任の教師と進路について面談にて、偏差値の高い高校へ進路変更を勧められた。
「私が、雄英を?」
「うちの中学からは受験した生徒いないけど、猫柳ならいけるだろう」
雄英の正式名称、国立雄英高等学校。
犯罪者勢力に対抗するためのヒーローを養成する学校のひとつが雄英高校である。
雄英高校はNo.1ヒーローのオールマイトや、ヒーローランキング上位のスーパーヒーロー達を養成してきた実績を持つ人気の名門校だ。雄英高校はヒーローを目指す中学生の憧れの場所である。
アザミは折寺中で唯一、そして初めての雄英圏内の生徒になっていた。
担任に背中を押され、アザミの頬は自然と緩む。それもそのはず、幼い頃からずっとヒーローになりたかったのだから。ましてやあの、雄英高だなんて…!
「先生、私!雄英高に行きます!
ヒーローになって、大好きなヒーローのサイドキックになります…!」
初めてヒーロー活動を見たあの日から、この気持ちは変わらない。沢山のヒーローやヒーロー活動を見てきたが、他へ気持ちが揺らぐことは微塵もなかった。
「サイドキックになるなら、もっと有名なヒーローのになったらどうだ?」
「私はこのヒーローがいいんですっ!」
担任がそう言うのも無理もない。アザミが憧れるヒーローは知名度がほぼない、人気があるとはとても言えないヒーローだった。あのヒーローオタクの緑谷でさえ、辛うじてヒーロー名を知っているくらいだ。
幼い頃、好きなヒーロー名を幼馴染の爆豪と緑谷に教えるものの「断然オールマイトが格好いい」とボロクソに言われてしまった。
ヒーローランキングに名は載らないし、活動も大きな成果はない。事務所のホームページを見る限りでも資金面が潤っている様子も感じられない。
彼女が尊敬してやまないそのヒーローは、地味なヒーロー活動を地道に行っている、そんな印象だ。