第4章 体育祭、それぞれの準備
この穏やかな時間がいつまでも続けばいい。
そんなことを願えば願うほど、時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもんだ。
……名残惜しい態度は微塵も出せねぇが。
「オラ!さっさと帰りやがれ!」
「ちょ!そんな押さないでよ!」
俺はグイグイとアザミの背を押す。
コイツん家の敷居を跨がせガシャンと扉を閉めた。俺とアザミの間には門扉が立ち塞がる。
「おらよ」
「わっ、何?!…って、これ、本?」
アザミに家庭科の教科書を投げつける。
「貸す約束だったろーが」
「これ、渡すためにバイト先まで来てくれたの?」
「んな訳あるか!
筋トレのついでに決まってんだろ!!」
はいそうです、なんて言えっかよ。
「自惚れんじゃねえ!」と、俺は再び心にも思っていない事をドスの効いた声で告げる。
「……そっか、そうだよねえ」
「ンだよ」
半ばストーカーじみた行動を取ってしまった自覚は、ある。
バイト後に届けるのは如何なものか悩んだが、俺のモブという言葉でアザミが傷ついたと思うと、どうしても居ても立ってもいられなかった。
「不器用な幼馴染だなあ、って思ってさ」
「あア"?!テメェそれどーゆー…!!!」
「ありがとねっ!かっちゃんっ!!」
薄暗がりの中でもわかる、アザミの笑顔。
多分この顔は、本当に嬉しいときの……
「そーかよ」
その顔が無事に見れたことで、俺の中でムシャクシャしてたモノがスッと消えてなくなった。
そんな気がした。
「良かった〜〜!
明日は朝一に英単語テストあって!復習時間に充てたかったの!!すっごく助かった〜〜!!」
「…」
嬉しいワケはそこかよ!!
そんなん事前に勉強しとけや!!
一瞬イラァッとするも、とりあえず目的は無事に達成した。
「A組まで届けに来い」
「あれ?行っちゃダメだったんじゃ、」
「来なかったら殺ス!」
来るなって言ったり、来いって言ったり、どっちなの?とくすくすと笑うアザミ。
うっせーわ!誰のせいだと思ってんだ!!
「体育祭終わったらさ、今度こそお祝いしよ!
入学祝いと、体育祭お疲れ様会!」
「お疲れ様会じゃねえ、俺の優勝祝だ」
「えっ?」
「―――――1位になる」
完膚なき一位だ。