第4章 体育祭、それぞれの準備
笑顔のアザミを見て、浮足立つと同時に。
アザミを傷つけた自分がどうしても許せなかった。
「!、おいっ」
「わ、わっと…!」
グイッとアザミを住宅の塀側に押し付ける。
ブロロロォ…と、俺とアザミの横を猛スピードで車が走り去っていった。
「っぶねーな!
あーゆうクソ運転手もいるから、気ィつけろや」
「う、うん」
閑静な住宅街の夜道は街灯も少なく、通行人もほぼいない。そのためか、たまに通る車や自電車に乗った通行人が物凄いスピードで通り過ぎる。
…俺が車道側歩いているものの、今のは危なかった。
アザミに当たったらどーすんだよ、ふざけんじゃねぇ!
「かっちゃんさ」
「あ?」
「……さっき、というか。バイト前も、その。
車道側、歩いてくれてたよね……」
普段うるせえくらい元気いっぱいなアザミが、珍しくボソボソと喋る。
「それが何だよ?」
「いや、ありがとって、思って。」
「当たり前ぇだろーが」
当たり前だろ、そんなん。
アザミに何かあったらどーすんだ。
「えっ」
「んだよ、さっきから」
「いや、別に……当たり前かあ、と思って」
「?」
アザミはひとり「そっかあ、当たり前なんだね」と、ふふっと笑う。それから「ありがとう」と少し恥ずかしそうに、けれど何処か嬉しそうに。
僅かな街灯に照らされたアザミの照れ顔が、こそばゆくて。
この無言の空気が、妙に居心地良い……
「……おい」
「なに?」
「…」
いや、居心地良さに浸ってなどいられない。
何故ならもうすぐアザミの家に着いてしまうからだ。
スマホを取り出し時間を確認する。
刻々とタイムリミットが迫っている。
「かっちゃん?」
アザミが問いてくる。
先程から弄っていたスマホをポケットに仕舞い込んだ。簡易メールを送信し終えたため、もうスマホに要はない。
「……何で」
「?うん」
「何で、テメェは親しげなんだよ」
「へ?」
思いもしなかった問だったようで、アザミはアホ面で素っ頓狂な声を出した。
…意を決し。
聞きたかった事を、一つずつ問いただすことにした。
「なに“姐さん”とか呼ばれてんだ、テメェはよ」