第6章 寝不足の罠
「まぁ、仕事はするさ。千早の義骸だしな」
「私の?まだ現世に行くって決まってないのにもう用意するの?
隊長格って何かと準備する物が多いのね」
「何言ってんだ?もう決まってんだろ、現世行き」
「?誰の?」
「お前の。今日の夜発つんじゃないのか?」
「へ?えっ、知らないよ!?何も聞いてない!」
阿近の言葉に、頭が混乱する。
私の現世行きが決まってる?その上今夜出発?
どういうこと?誰情報?当の私は何も聞いてないんだけど。
「あー……千早も苦労してんだな」
「待って、本当に私が現世に行くの?」
「あぁ。千早が行くって聞いてるぞ。
だから俺は今からお前の義骸を1から造らなきゃなんねぇ」
「な、何それ、とんでもなく急じゃない。阿近は大丈夫なの?」
「なんとかする。総隊長命令じゃそうするしかねぇだろ。
俺のことより千早は良いのか?
事実確認と、夜発つまでに今の仕事ある程度片付けなくて」
阿近の言葉にサーッと体温が下がっていくのが分かる。
そうだ。
今日すぐに発つのであれば、書類をやる時間はかなり限られてしまう。
発足したばかりの隊では、隊員も何かと苦労することも多いだろう。
「っ、ごめん!阿近!」
「別に良い。引き止めたのは俺だしな。
千早が行くまでには完成させる」
「ありがとう!お願いします!」
*****
時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていた為に瞬歩を使って隊舎まで戻る。
初めての業務が多くて皆苦労してないかな、と不安になりつつ執務室の扉を開けると机に書き置きが置いてあった。
お疲れ様です。
書類は現状問題なく進んでますので、こまめに各隊に配りに行っています。
三席の名前でそう書かれていた。
隊長が不在だったのになんて順応の速さだ。
流石は各隊から選ばれた書類のエキスパート。
私の心配なんて杞憂だったな、と隊士達の居る仕事部屋に向かいお礼を言いに向かった。
「我々は、我々の仕事をしただけです。
何もお礼を言って頂けるような大層なことはしてません」
隊士皆口を揃えてそう言った。
なんて良い人達なのだろうか。私には勿体ないぐらい優しい部下だ。