第3章 呑んで、呑まれて、食べられて
「へぇ、やっぱり広ぇんだな。隊長の私室って」
「そう?」
「俺らに与えられてる部屋と違う」
「まぁ多少はね」
奥にしまってあったお酒とグラスを並べる。
飲む機会がないと思ってかなり奥にしまい込んでしまっていたので、取り出すのに少し時間が掛かってしまった。
「あんまり種類なくて今はこれしかないけど……」
グラスに並々とお酒を注ぎ、傾ける。
透明でグラスの底が見えている。
その透明な液体は薄らと桃色がかっていて綺麗だ。
「……良い酒だな」
「ええ」
ふわりと仄かに香る花の香り。
強過ぎず、絶妙で口当たりも良い。
甘口過ぎず、辛口過ぎず、程良いまろやかさ。
「京楽さんに貰ったの。復帰祝いだって」
「流石、舌だけは肥えてる」
阿近はそのお酒が気に入ったようで、ペース良く呑み進める。
てっきり辛口のお酒が好きなのかと思ってたけど、そうでもないみたいだ。
「千早って警戒心ねぇよな」
「はい?」
無言で呑んでいた阿近が不意に発した言葉に驚く。
「そんなことないよ。
警戒心なくて隊長が務まる訳ないでしょ」
「だから、そういうとこ」
いつの間にか視界が反転していて、目の前には阿近の顔と天井。
背中には固い畳。
一瞬何が起こったのか全然分からなかった。
私を見下ろす阿近の目元はほんのりと赤い。
「阿近、酔ってるの?」
「そんなに酔ってねぇ。
男を部屋に上げる意味、分かってんの?」
グッと顔を近づけられ、顔に息が掛かる。
阿近の口からはほんのりとアルコールの独特な匂いがする。
あんなに飲んでたのに、そこまで匂い強くならないなんて相当高いお酒なんだろうな。
「こういうことされても文句言えねぇよな」
「んッ……」
腰に押しつけられる、硬く主張した熱いモノ。
抗議しようとした口を塞がれ、身体が固まる。
触れる唇は柔らかく、お酒の味がする。
「っ……ン……」
角度を変え、何度も何度も啄むようにキスをする。
息をする間を与えてくれず、酸素が足りなくて頭が……ボーッとする。