第1章 引退、そして始まり
今から約250余年程前、大規模な内乱が尸魂界各地で頻発して起こった。
ことはすぐに終焉を迎えたが、その被害は甚大で現役隊長格三名が殉職。
席官、他隊員を含む、多くの負傷者を出した。
当時三番隊の隊長を務めていた千早も左目を負傷する大怪我を負い、内乱は護廷十三隊に大きな痛手を与えた。
この内乱で左目の視力を完全に失った千早は、終焉後間もなくして自ら護廷十三隊を去った。
当時の技術では視力回復はおろか、義眼も存在せず、眼帯を宛がって過ごしていたのだが、やはり視野が狭まったことによる戦闘に大きな不安があった。
左目は真っ暗な闇しか映すことが出来ず、不意をつかれやすい。
それが神咲千早の、引退理由である。
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時は進み、現在の尸魂界。
護廷十三隊は未だかつてない程に混乱していた。
現役三隊長の裏切り、上位席官の多数重症、中央四十六室の暗殺を受け、頭を悩ませた総隊長はある1つの行動を起こした。
“ 事態は火急である。
この手紙を読み次第、至急護廷十三隊一番隊隊首室まで来られたし ”
そう記した手紙を速達で目的の場所まで裏廷隊に運ばせる。
裏廷隊からの手紙を受け取った千早は、重い腰を上げ、瀞霊廷に足を運んだ。
引退して以降、200年以上ぶりに訪れる瀞霊廷は変わり果てた姿をしていた。
壁や建物は倒壊し、至る所に血痕が飛んでいる。
それもかなり真新しい物だ。
普段着である紺の浴衣のまま、引退以降そのままにしていた髪は腰まで届こうとしている。
慣れた片目だけの視力で古い記憶を辿りながら瀞霊廷へと向かう。
以前は隊長をしていたとはいえ、今は前線から退いた身。
無関係の人間であることに変わりはない。
そんな人物が瀞霊廷内をウロウロしていたら目立つし、問題になるだろう。
周りの霊圧を探りつつ、目的の一番隊隊舎まで向かった。
霊圧を探ることや、自分の霊圧を抑えることは引退してから常にやっていたことであった為、何も苦ではなかった。