第11章 調査 #1
「順調とは言い難いが進んでる」
「そう、なら良かった」
阿近のところへ行こうとすると足元に大きな塊があった。
思わず踏んでしまいそうになったそれは檜佐木くんで、寝転がって腕を組みながら眠っていた。
「ここに泊まることにしたの?」
「ちょっと付き合わせてたら遅い時間になってな。
その時間から家に押し掛けるのは悪いって言ってそこに居る」
「そっか」
「気分は治ったのか?」
「……やっぱり阿近には隠しごと出来ないね」
「当たり前だろ。一服するから付き合え」
阿近に言われて、再び外に出る。
日中に来た河原に寄り、煙草を咥える阿近をジッと見つめる。
「なんだ、吸いたいのか?」
「うん、貰おうかな」
「肺を悪くしても知らねぇぞ」
阿近に1本煙草を貰い、火をつける。
小さく吸い込むと煙が口の中に入って来て思わずむせ込んだ。
喉がヒリヒリする。苦い。
「千早にはまだ早ぇんじゃねぇか?」
「そんなことないよ!」
「どうだか」
クツクツと喉を鳴らして笑う阿近に、暗くなっていた気分が少しだけ浮上する。
「何かあったか?」
「……ううん、何も」
「なら何をそんなに落ち込んでる」
「分からないの。
特に何か嫌なことがあった訳でもないし、自分でもこんな気分になってる理由が分からない。
だから凄くモヤモヤして、嫌になる」
理由のないモヤモヤを感じるのは初めてでは無い。
過去には何度も経験して来た。
その度に無理に誤魔化して、働いて、自然と治まるのを待っていた。
今回のこれも時間が経てば解決するだろうと。
「誰だって理由が分かんねぇで気分が下がる時だってある。
気にすんな、その為に俺が居るんだろ」
「ありがと……」
優しく髪を撫でてくれる手が嬉しくて、でも恥ずかしくて。
照れ隠しに煙草を吸えばまたむせた。
やっぱり私にはまだ早いのかもしれない。
「煙草って苦いんだね」
「そりゃな、成分見りゃ分かんだろ。
千早、焦らなくて良い。ゆっくりでも確実に奴を捕らえることだけ考えろよ」
「うん。そのつもり」
「そろそろ戻るか。寝なきゃぶっ倒れるぞ」
「……抱っこ」
「は?」
「なぁんて、ウソ」
困ったからってすぐ嘘って言うの辞めろ、と阿近はそのまま私を背中におぶってくれた。
暖かい背中と心地良い振動が眠気を誘う。