第10章 特例任務
阿近の腕の中でゆっくり眠っていると、1羽の地獄蝶が部屋に飛び込んで来た。
この時間帯に来る地獄蝶には良い思い出がない。
眠い眼を擦りながら人差し指に地獄蝶をとめると、そこから伝令が流れた。
通達!
護廷十三隊各隊隊長、並びに副隊長各位。
半刻後に緊急隊首会を執り行う。
また休みがなくなった、と小さく溜め息を吐き着替えようと布団から出た。
やっぱり阿近と一緒に居られる日は良く眠れる。
そのお陰か前日の疲れは残っていない。
「……休みの日なのに早ぇな、起きんの」
「おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」
「いや。どこか行くのか?」
「うん、ちょっと緊急の隊首会があって……」
「最近多いな。無理はするなよ」
死覇装に着替え終わった私を見て、そう呟く阿近。
「うん、ちょっと別件でやっておきたいこともあって少し早めに行くの。
鍵だけお願いしても良いかな?」
「あぁ」
「ありがとう。行って来るね」
本音を言えばもっと阿近とゆっくり過ごしたかったけど、仕方ない。
櫛で軽く梳かした髪を首裏で纏めると昨日貰ったばかりの簪を通した。
やっぱり可愛い。
*****
「おはよう、千早ちゃん。早いね」
「京楽さん!おはようございます。京楽さんが早く来てるなんて珍しいね」
「ちょっと、僕のことなんだと思ってるのさ!」
「ふっ……確かに千早の言う通りだな」
私の言葉に、京楽さんの隣に居た浮竹さんが肩を揺らして笑う。
「ちょっと今回の件で山じぃに報告があってね。
それよりその簪可愛いね。ひょっとして阿近くんから?」
「えっ、な、なんで?」
京楽さんの手が軽く簪に触れる。
シャリ……と小さな音を立てて花飾りが揺れた。
「僕の目は誤魔化せないよ。
千早ちゃんがあんなに心を許してるのなんて阿近くんぐらいしか居ないじゃない」
「……恥ずかしいから、他の人には言わないでね……?」
「もっちろん。恋する女の子は可愛いねぇ」
ヨシヨシとその大きな手で私の頭を撫でる。
その手は温かく、阿近とはまた違う安心感がある。
やっぱりこの2人は私のお兄ちゃん的な存在だ。