第9章 本格始動
「阿近?」
「それやるよ」
手鏡を取り出して自分の髪を見てみれば、真っ白な簪が着けられていた。
青い小さな花のような飾りが付いていて、それが動く度にシャラシャラと小さな音を奏でる。
凄く綺麗で一目で高価な物だと分かる。
「っ、良いの?こんな高価な物……」
「別に。値段なんかどうでも良い。
ただ千早に似合いそうだと思ったら、買ってた」
「ありがとう!ずっと大事にする!」
「あぁ。やっぱり白も合うな」
簪なんて久しく付けてなかったけど、明日から毎日付けて行こう。
好きな人から貰った物って見ているだけ、身につけているだけで凄く力になる。
頑張れる。
頑張ろうと思う力をくれる。
私も何か阿近に返せたら良いなぁ。
「……大好き」
隣で2本目の煙草を咥える阿近に寄りかかり、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。
こうして好きな人の隣で一緒に月を眺められるなんて、凄く幸せだ。
戦いに身を置く私達が休めるこの平穏が、少しでも長く続きますように。
「どうせならもっとでかい声で言え」
吸い込んだばかりの煙を、ふぅ……と吐き出す。
白くてモワモワした煙は空に向かって消えていく。
会話はないけど、すぐ隣にある体温と阿近の匂いに安心していつの間にか意識を手放していた。
「……俺より先に死ぬなよ」
付けたばかりの簪を抜き、膝裏に腕を回して抱え上げると敷きっぱなしだった布団の上に寝かせる。
年齢的に考えれば俺の方が確実にあとに死ぬだろう。
それは分かってるが、でも千早には殉職して欲しくねぇな。
護廷十三隊に身を置く者なら戦いは避けられない宿命。
ましてや1つの隊を束ねる隊長ならば尚のこと。
暗く青い髪に口付けるとほんのりと花のような優しい香りがする。
それを少し吸い込み、隣に寝転んだ。
「お前が笑っていればそれで良い」
柔らかな身体を抱きしめ、俺も目を瞑った。
千早と居る時にだけ訪れる “安心して眠れる時間” はかなり貴重だ。