第9章 本格始動
「ありがとう。阿近は物知りだね」
「別に。そうでもねぇよ、まだ知らないことは山程ある」
「ふふ、そうね。
髪切ろうかと思ってたけど、阿近が褒めてくれるならもう少し伸ばしてみようかな」
「好きにしろ」
水が目に入らないように丁寧に泡を流してくれる。
「ありがとう。阿近のも洗ってあげる」
「いや、俺は良い」
「遠慮しなくて良いよ?」
「遠慮じゃねぇよ、千早下手そうだから」
「失礼な!そんなことないよ!」
先に中浸かってろ、と阿近に促されて浴槽に身体を沈める。
最近忙しくてあまり湯船に浸かる機会少なかったけど、やっぱりちゃんと浸かると疲れが取れていくのが分かる。
浴槽の縁に腕を置いてそこに顎を乗せながら、頭を洗っている阿近を見つめる。
明るいところで見る機会あんまりなかったけど、阿近って意外と筋肉ついてる。
「わぶっ」
「何ガン見してんだ、変態」
阿近の身体をジッと観察していると、シャワーのノズルをこちらに向けられた。
顔に思い切りお湯が掛かり、変な声が出てしまった。
そりゃ見過ぎてた自覚はあるけど、でも気になるじゃん。
こんなにじっくり見れる機会早々ないんだから。
ってこの思考が変態じみてるのかな……。
「なに、欲情でもしたのか?」
「ううん、そうじゃなくて。意外と筋肉ついてるんだなぁって思って」
「そりゃ男だからな」
「まぁそうなんだけど」
「そう言うお前だって筋肉ついてるだろ」
「隊長だからね」
「それと同じだ」
「ちょっとよく分からない」
だろうな、と小さく鼻で笑うと阿近も浴槽に身体を沈めると少しだけお湯が溢れた。
一人用の湯船は二人で入るには少し窮屈だ。
それでも嫌な窮屈感じゃない。
「おい」
「どうしたの?もう逆上せちゃった?」
「距離が遠くねぇか」
「そう?」
腕を引かれて、気が付けば阿近の脚の間に座らされていた。
背中にピッタリと阿近がくっ付いて座っていて、心臓の音が聞こえてしまわないか不安で仕方ない。
「あ、阿近、ちょっと近くない?」
「嫌か?」
「や、嫌とかそういうんじゃなくて、えっと……」
「なんだ、ハッキリ言え」
「っ、あ、あたってる……」
「知ってる」
「しっ!?」