第53章 最終話 evermore
10年後
11月7日
米花中央病院
一般外科病棟
ベッドの上の患者に聴診器を当て、心臓の音を聞いたわたしは、聴診器を外して肩にかけカルテを記入しながら告げる。
「はい、経過は良好ですね。」
「ありがとうございます。萩原先生のおかげでまたサッカーができます」
「無理は禁物ですよ?今度身体に違和感を感じたらすぐに病院を受診するように。わかりましたか?」
医師免許を取って10年が過ぎ、気付けばタイムスリップする前の自分の年齢を追い越していた。
病室を回って診察をし終え、医局に戻ったわたしに看護師が問いかける。
「萩原先生。今日半休ですよね?
時間、過ぎてますけど大丈夫です?」
「っ!ああ!大丈夫じゃない!ありがとう!」
以前の自分と比べ、かなり大人になったはずだけど、人間の本質はそうそう変わらないらしい。
バタバタと荷物をバッグに詰め込み、ロッカーでスクラブから私服に着替えると大急ぎで病院を飛び出した。
病院近くの花屋で花束を購入し、車を飛ばして到着したのは渋谷、月参寺。
今日は、お兄ちゃんの命日だ。
購入した花を持ち、お寺の住職さんにご挨拶をしてバケツに水を汲んでいる時、わたしを呼ぶ声がした。
「ミコト」
声のする方へ顔を向けると、そこにいたのはわたしのかけがえのない人
「陣平くん!」
そして
「ママー!」
「美桜ー!」
両手を広げてその天使を抱き止めると、陣平くんがやれやれ。と言いながら後ろからついて来た。
「ありがとう。お迎え行ってくれて」
「同僚の奴らに、松田が保育園にお迎え?!って驚かれたぜ…
そんなに珍しいかねえ。イクメンの俺。」
そう言いながら陣平くんは美桜を抱き上げると、サングラスをオモチャみたいにイタズラされている。