第52章 愛
ナースが呼んだ医師は藍沢。
ミコトの脈を見る彼に、ミコトは恐る恐る尋ねた。
「わたし…」
「爆発に巻き込まれて、身体を強く打ち付けたんだろう。
心破裂と脳挫傷で緊急手術。」
「思ったより…重症ですね…
藍沢先生が…執刀してくれた…?」
「あぁ。救命処置と脳挫傷はな。
心臓を縫ったのは心臓外科のドクターだが、俺の同期で信頼できる奴だ。心配するな」
その言葉を聞いたミコトは安心したように笑った。
藍沢のことを、医師として信頼しているんだろう。
「お手数をおかけしました」
「貸しにしておいてやる。
早く元気になって、来年研修医として入ってきた時に借りを返してくれ。」
相変わらずクールな物言いの藍沢は、それだけ言うとミコトの母と姉に一礼した後ICUを退室した。
医師の診察が終わってすぐ、母と千速がミコトに駆け寄り、涙を流しながら手を握る。
「ミコト!!!」
「お母さんにお姉ちゃん…」
「よかった…本当に良かった!」
「心配…かけて、ごめん」
まだ話すのすら辛いのか、たどたどしく声を出すミコトの頬を泣きながら撫でるおふくろさん。
そして千速も嬉しさが涙となって目に浮かんでいて、千速が泣いている顔を久しぶりに見た気がした。
萩原が死んだ時以来だ。
ミコトが目を覚ましたことに安心した2人は、俺に目配せをした後
「じゃあ、お母さんたち戻って仮眠をとるから、また明日の朝顔観にくるわね?」
そう言ってICUをあとにした。
ベッドの周りのカーテンを閉め、2人きりになった俺たち。
厳密には、カーテンのすぐ外にはICU勤務の医師やナースがいるから、会話は丸聞こえだ。
そう考えると、さっき俺は他人もいる中で堂々と愛してると言ってしまったのだと今更ながらに気付いた。