第52章 愛
「ん…」
吐息が漏れる音がして、ハッと振り返ると
ミコトのつけている酸素マスクが白く曇り、ゆっくりと目が開いた。
「ミコト…」
「じん…ぺ…く…」
虚な目で天井を見た後に、ゆっくりと俺の顔を視界にとらえ、辿々しく名前を呼ぶミコト。
俺はミコトの手を握りながら何度もミコトの名前を呼んだ。
「っ……ミコト…ミコトっ!!」
「なんで…泣いて…る…の?」
「っ…泣いてねえよ…泣いて…ッ…
ミコト……」
「…?」
「あい…してる…っミコト…」
あんな大事故に遭って、生死を彷徨ってやっと目を覚ましたときにこんなこと言われても、困るよな…
でも、言いたかったんだ。
ちゃんと、ミコトの目を見て、今まで誰にも言ったことのない言葉を。
ミコトは俺をじっと見たまま、ぽろ…と涙を一筋こぼした。
そして、精一杯に微笑んだ。
「うれ…しい」
「ミコト…っ…身体は?大丈夫か…?
すぐに先生呼んで…」
「じんぺ…く…今日、なんにち…?」
そう尋ねられ、ICUの時計を見た。
時刻は0時を回っている。
「11月9日だ」
そう伝えると、ミコトはじわりと涙を浮かべた。
「そっか…そう…なんだ…
よかったぁ…」
日付を聞くや否や、ボロボロと涙をこぼすミコト。
何も良くねえよ…んな大怪我して…
俺は急いでICUにいるナースにミコトが目覚めたことを伝え、千速と萩原母が休んでいる別室にもノックもせずに突撃した。
ミコトが目を覚ましたと聞いた千速と萩原母は飛び起き、大急ぎでICUに戻ってきた。