第52章 愛
俺はゴシゴシと自分の目を擦り、パチパチ開いて閉じてもう一度見開いて萩原を見た。
「おま…なんで…っまさか、ゆうれ…」
「失礼だな!足ついてるだろ?ちゃんと!」
「た、確かに…」
確かに。って納得してどうすんだ俺!!!?と自分の心の中で自身にツッコミをいれる俺に、萩原がミコトの髪を撫でながら言う。
「陣平ちゃんが俺に会いたいって言うから、会いに来た」
「っ…別に、俺は…」
つい、萩が生きていた頃のように口をついて出そうになった強がり。
それをグッと飲み込んだとき、同時に涙が溢れた。
泣くのなんか俺らしくねえ。男らしくもねえ。って思うのに、止めようと思えば思うほど涙が溢れて、俺の本音と共にこぼれおちた。
「っ…会いたかった…
ずっと、萩原に会いたかったっ…」
この4年、萩原に会いたいと思わない日はなかった。
会いたいと思うたびに、もう会えない現実に打ちのめされて、喉の奥に鉛を詰められたような気分になった。
会いたかった…萩原に、幽霊でもなんでもいい。
萩原はそんな俺の様子を見て、あの頃と変わらない憎たらしいほどハンサムな笑顔で笑う。
「嬉しいねえ。俺がいなくなって、陣平ちゃんこんなに泣いてくれるのか」
「っ…たりめえだろ?!
どれだけお前と一緒にいたと思ってんだよ」
「だな。兄弟同然だ。
でも俺は、陣平ちゃんとミコトの事、ずっと見てたぜ?」
「ずっとって…」
やべ…どこからどこまで見られてたんだ?!萩原に。
と、内心焦る俺を煽るように萩原が笑う。
「俺の可愛い妹に、エロい事しまくってんの。ぜーーんぶ見てた」
「べっつに、しまくってねぇだろ?!
…ちょっとしか」
「自覚あるのかよ!
まあそれは冗談として、ミコトのこといつも大切にしてくれてること、ちゃんと見てたよ」
萩原はそう言うと、兄貴の顔になってミコトの前髪を指で寄せた。
「…大切にできてねえよ…
こんな怪我、負わせてるんだから」
「それは陣平ちゃんのせいじゃないだろ?
ミコトは、陣平ちゃんを守ろうと必死だったんだよ」
「俺がミコトを守るはずだったのに…
っ…もし、このまま目を覚まさなかったら」
そんなもしもの話を口にするだけで、全身が震える。