第52章 愛
どちらにせよ、俺の命はミコトに助けられたようなものだ。
「ミコト…」
俺は名前を呼びながらミコトの手を握った。
「別室を用意してくれてるみたいだから、私達は一度休ませてもらうわね…」
娘の変わり果てた姿を見て精神的にも参っているミコトの母は、千速に連れられて別室へと向かった。
部屋を出る時、ふと足を止めた千速が俺に言う。
「陣平。ミコトはきっと大丈夫だ。
研二が守ってくれるよ」
「…そうだな」
力のない俺の返事を聞いた千速は、それ以上何も言うことはなく、母親とICUを後にした。
萩原…
なんでお前はいねえんだよ…
萩が守ってくれるとか、そう言うのいらねえよ…
俺がミコトを守らなきゃいけなかったんだから。
守れなかったのは、俺なんだから。
萩原…
ただここで、俺と一緒にミコトの手を握ってくれよ…
「ミコトのことよろしく頼むって言ったのに。陣平ちゃん、何やってんだよ」と文句の一つでも言ってくれよ…
「萩原…」
どうしていないんだよ…萩原ァ…
絞り出すような声で、萩原の名前を呼んだときのことだった。
「陣平ちゃん」
俺の名前を呼ぶ声がした。
俺は自分の耳を疑う。
だってそうだろ?
その声は、4年前以来一度も耳にしたことはない俺の親友の声。
俺のことを陣平ちゃんと呼ぶのは萩だけだ。
萩の声が聞こえるはずないのに。
そう思い、顔を上げて隣を見るとそこにいたのは
「はぎ…わ…」
「よぉー。陣平ちゃん。
久しぶりだなあ」
4年前に死んだはずの俺の唯一無二の親友、萩原研二が座ってミコトの手を握っていた。
「は…?え…?」
「元気にしてたか?
って、俺いつも見てたから元気有り余ってたの知ってるけどな?」
当たり前みたいに、萩原がそこにいる。
動いている。
4年前と何一つ変わっていない萩原が、たしかにここにいた。