第52章 愛
松田side
藍沢がミコトの胸を切り開き、処置を施しさらには手を突っ込んで直接心臓マッサージをしている間、俺はミコトの手を握り、名前を呼び続けた。
桜色の頬は真っ白になり、唇は紫になり、あらゆるところから血を流している変わり果てた彼女。
もうダメかもしれねえ。なんて、思いたくない。
目を開けて、陣平くんと呼んでくれ。
そしたら俺は、開口一番真っ先に、お前に愛していると言いたい。
愛してると、言わせてくれよ…
そう噛み締めながら、ぎゅ…とミコトの手を強く握った時だった。
ぴく…
握ったミコトの手、その小指がわずかに動いた。
その感覚を感じ取った俺はハッと顔を上げ、ミコトの名前を叫ぶ。
「?!ミコト!??…おい、ミコト…」
すると、また小指がピクピクと動いた。
生きてる…!生きてる…
俺は夢中になってミコトに話しかけた。
「聞こえてるか…?なあ、頼むから…俺お前に伝えたい言葉があるんだ。
ちゃんと目を見て言いてえ…戻ってこい…戻ってこいよ!」
そう叫んだ瞬間、
ピッ…ピッ…ピッ…
ミコトに繋いでいたモニターの心拍が再開する音が聞こえた。
「!心拍、再開しました!」
ナースのその知らせに、藍沢ドクターは残りの処置を神のような手捌きで終わらせた。
「急いで処置室へ運ぼう。準備は」
「出来てます。ストレッチャー持ってきました」
ミコトの瀕死の身体はストレッチャーに乗せられ、緊急オペのため処置室へと運ばれていった。
大丈夫。ミコトは必ず目を開ける。
必ずまた、あの俺の愛してやまない笑顔で陣平くんと名前を呼んでくれるはずだ。
ミコトの手術中、ただ待っているだけじゃいられねえ。
萩原を殺し、ミコトをこんな目に合わせた犯人の聴取、裏取り、送検
俺のやるべきことをやろう。
そう心に誓い、俺はミコトが運び込まれた処置室の「手術中」というランプが点灯したことを見届け、病院を後にした。