第52章 愛
そこにいたのは
「お…にいちゃん…」
「よぉ。ミコト、久しぶり」
お兄ちゃんはわたしを見るなり、あの誰もを魅了する笑顔で手を振った。
変わらないその姿に嬉しさが込み上げてきて、わたしはお兄ちゃんの元に走った。
「お兄ちゃん!」
「来るな!」
駆け寄ろうとするわたしを、お兄ちゃんにしては大きな声で静止するから思わずわたしは足を止めた。
「どうして…?お兄ちゃんが迎えに来てくれたんでしょ?
わたしが、迷子にならないように」
「その逆だよ。
兄ちゃんは、ミコトがこっちに来るのを止めに来た」
お兄ちゃんは優しく笑いながら続けた。
「ミコトの居場所は兄ちゃんの隣じゃないだろ?」
「っ…でもわたし、陣平くんを守ったよ…?」
「あぁ。偉いな。
でも、陣平ちゃん、泣いてるよ。」
お兄ちゃんは偉いと褒めているのに悲しそうに微笑んだ。
「え…」
「ミコトが一番わかるだろ?
大切な人を亡くしてから生きるのが、どれほど苦しく辛いか。
陣平ちゃんの隣に帰るんだ」
「っ…帰りたいけど…
帰り方がわからない…」
「強く思うんだ。陣平ちゃんの隣で生きたいと。
そして耳を澄まして。陣平ちゃんがミコトを呼ぶ声が聞こえるからさ。」
そう諭すお兄ちゃんに縋りながら、わたしは涙を拭うこともせずにボロボロこぼしながら叫ぶ。
「それならお兄ちゃんは…?お兄ちゃんも一緒に帰ろうよ!
また3人で…3人で一緒に」
そう言いながら手を伸ばしたけれど、その手をお兄ちゃんが握ることはなかった。