第52章 愛
そこにいるのは医療従事者と思われる格好をした人間が数名。
その真ん中には誰かが横たわっている。
怪我をした人間の救命措置をしている。と、瞬時に判断した俺は一目散にそこへ向かった。
倒れている人間に必死に心臓マッサージを繰り返す医師。
その医師には見覚えがあった。
「藍沢…」
ぽつりとその医師の名前を呼び、患者に目を落とすと走っていた俺の足はぴたりと止まった。
「ミコト…」
藍沢が必死になって蘇生措置を行っている人間
それは、俺の最愛の恋人
萩原ミコトだった。
「藍沢先生!除細動持ってきました!」
「了解。あと、緊急オペの準備。救命にコンサルして」
「はい!」
AEDを受け取った藍沢は、ミコトの服をハサミで切り、肌にパッドをつけて蘇生措置を試みる。
まるで医療ドラマのワンシーンのように現実感がない。
思考回路が全くと言っていいほど追いつかない俺はその場に立ち尽くした。
待てよ…どうしてミコトが…
冗談だろ?なあ…
AEDの電流が流れ、ドクンッと身体が跳ねた音で俺はハッと我に帰る。
心拍は再開せず、すかさずまた藍沢が心臓マッサージを再開した。
ようやく、ミコトが今重篤な状態だと理解した俺は、次に我を忘れてミコトに呼びかけた。
「ミコト!!…っおい、何やってんだよ!目ェ開けろよ!」
叫び声のような俺の声は届かず、ミコトの目は開かない。