第51章 死なせたくない人
松田side
日の光が大きな窓から差し込んできて俺の顔を照らした。
眩しくて目を開けると、捜査一課の誰もいないがらんとした執務室が目に入る。
時刻は朝の6時。
どうやら爆弾犯からの動きはまだ無いらしい。
椅子を繋げて作った即席ベッドじゃ全く疲れは取れなくて、俺はんんんーーと背伸びをしてコーヒーマシンでコーヒーを淹れた。
「今日帰ったら、ミコトとベッドで寝てやる」
そう心に誓い、熱いコーヒーを目覚ましがわりに身体に流し込んだ。
そんなとき、一課の執務室のドアが開き、誰かが出勤してきた。
こんな朝早くから、さすがブラック企業の捜査一課だ。と、その物好きなやつを視界にとらえると、そこにいたのは佐藤。
「おはよう」
「あんたか。やけにはえーな。
昨日は夜遅くまでバタバタだったくせにタフだねえ」
「なによ。そういう松田くんだって、目にクマが出来てるわよ。
椅子繋げて寝たんじゃ疲れとれてないでしょ」
「いいんだよ俺は。
今日一日頑張ったら、家に帰ってミコトに癒される予定だからな」
そう言いながら、昨日買い溜めしておいたレッドブルーを朝から一気飲みする俺。
そんな俺に佐藤は真剣な顔をして言った。
「いよいよ今日ね。11月7日。
…来るかしら。犯人から何かしらのアクション」
「来るさ。
必ず俺がこの手で捕まえてやる…」
自分の手をグッと握って出来た拳を見つめる俺。
そんな俺の心情を察したのか、佐藤が静かに口を開いた。
「ひとつ、約束して」
「あん?」
「もしも犯人を追い詰めたとしても、殺しちゃダメよ
生きて逮捕するの。いいわね?」
「…わかってる。
俺が殺人犯になっちまったら、彼女を幸せに出来ねえからな」
この期に及んでまだそんな惚気をかます俺を見て、佐藤は呆れたようにため息をついて笑った。
それからゾロゾロと他の刑事も出勤してきて、いつもの日常が始まったけれど、俺と佐藤の周りだけは「爆弾班からの連絡があるかもしれない。」と、空気がピンと張り詰めていた。
時間が経つのが、いつもの3倍遅く感じたぐらいだ。