第50章 11月6日
ミコトの目は泣き腫らして真っ赤になっていて、本当に真剣に心の底から帰ってこいと訴えかけているようだった。
「ミコト…悪いがそれはできねえ」
「っ…」
「俺は、萩原と約束したんだ。仇を取るって。
だから、帰らねえ」
そう言い切ると、ミコトの目からまた新しい涙が溢れた。
「…そう…だよね…ごめん」
一言そう言うと、そっと身体を離しながら自分の目から溢れた涙をぐしぐしと拭うミコト。
ようやくわかってくれたか…と胸を撫で下ろしていると、またミコトからとんでもない要求が降ってくる。
「じゃあ、キスして」
「っはあ?!」
「ここでキスして、明日ちゃんと帰ってくるって約束して。
そしたら今日は大人しく帰るから」
「ここでって…警視庁の正門の真ん前なんだが」
「…できないの?」
さっきとはまるで立場が逆転。
ミコトは俺を試すように、じっと上目遣いでこちらを見てくる。
できるか出来ないかで言うと出来るけど!!
…まあいいか。別にミコトとのキスシーンを誰に見られようと。
俺はミコトの頭を支えながら、奪うようなキスをした。
ちゅ…と唇が触れる時、あ…なんかこれだけで俺一気に体の疲れ取れてんな…って思った。
ゆっくりと離すと、ミコトは俺の頬に手を寄せながら俺を見つめた。
その表情がどこか悲しそうで、儚げに見えた。
「じゃあ、また明日」
「あぁ。また明日」
そう言葉を交わすと、ミコトは俺の頬から手を離して、背中を向けて帰って行った。
その背中からなぜか俺はずっと目を離せなかった。
ミコトの身体が見えなくなるまでずっと、ずっと見つめていた。