第50章 11月6日
「あれ?松田が持ってる花…」
「んー?」
ヒロの旦那が俺の持つ花束を見て目を丸くした。
俺は首を傾げて萩の墓前を見ると、俺が持ってきた花束と全く同じものが既に供えられている。
「その花、持ってきたの誰だ?」
「オレたちが来た時にはすでに供えてあったよ」
その一言を聞いて、俺はさっき花屋の店員と交わした会話を思い出した。
俺と全く同じ花束を買って行った女がいたと言ってたな…
萩の墓前に備えてあるってことは、間違いなくこれを買ったのはミコトだ。
俺たち、買う花束すら同じなんてどこまでバカップルなんだよ…
と、内心物凄く嬉しいのを照れ隠しに自虐していると、ゼロが俺を眺めながら尋ねた。
「捜一に移ったんだってな、居心地はどうだ」
「まあまあってとこかね」
最初はこんなとこ、来るんじゃなかったとばかり思っていたが、慣れとは恐ろしいもので、今ではすっかり捜査一課に毒されている俺。
そんな刑事ヅラしてる俺に、班長が笑いかけた。
「俺も来月から警視庁に配属が決まったからヘタ打って追い出されないようにな、先輩」
「バァカ、刑事としてはお前の方が先輩だろうがよ」
班長にそう返すと、ヒロの旦那が目を細めながら萩を眺めながら呟く。
まるで、あいつを懐かしむように。
「でも、松田が来てくれて萩原も喜んでるよ」
「来ねえわけねえだろ。」
笑ってそう言うと、萩原の墓標に目をやった。
そして勢いよく拳を突き出すと、よく萩原と拳を突き合わせるノリをしてたことを鮮明に思い出せる。
「あいつの仇を取るって約束は、まだ果たせてねえんだからよ」
萩原がいなくなってもう4年が経っているのに、俺は相変わらず萩原とよく交わしていた癖が抜けねえ。
それでも、萩原はもうどこにもいないんだとちゃんと理解できるほど、4年という時間は十分に長かった。
だが、明日できっと何かしらの決着が着くはずだ。
例の謎のFAX
今年はきっと数字以外の何かが送られてくるに違いない。
萩原の仇を取る、最大にして絶好のチャンス。
逃すわけにはいかねえ。
「それはそうと、松田。
ミコトさんは元気にしているか?」
「なんだ。零は会ってねえのか」
「そりゃあ、会う理由がないし」