第49章 カウントダウン ☆
帰宅して無心になって料理をしていると、陣平くんが帰宅した音が玄関から聞こえた。
「ただいま」
LDKの扉を開けてキッチンに立つわたしを見つけた陣平くんは、サングラスを外しながらわたしの後ろに立つ。
「おっ、おかえり!」
「お、美味そうー。腹減ったぜ」
わたしを後ろから抱きしめて、わたしの肩に顎を乗せて手元を眺める彼。
こんな何気ない仕草も、もう見られないかもしれないとふと心が苦しくなる。
「陣平くんの好きなもの、たくさん作ったよ」
「見たらわかる。けど、作りすぎじゃねえ?
俺のこと力士か何かと勘違いしてんのか?」
そう言われて、キッチンカウンターに並べた料理の数を見ると、とても2人じゃ食べきれない量を無意識に作っていた。
「あ…ごめん。食べられないよね?
実家にお裾分けで持っていこうかな!」
「今から?やめとけやめとけ。
俺、腹減ってるし、残った分は弁当にして明日持ってくからよ。
それでも食い切れなかったら、明後日でも明々後日でも食おうぜ」
「明々後日…」
11月8日も、陣平くんとこのお料理を食べることができる…?
そんな不安がまた押し寄せてくるわたしをよそに、陣平くんは笑いながらわたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。
「あんだよ。大丈夫だって、11月だし3日ぐらいもつだろ
俺の身体はそんなヤワじゃねえから」
「…なんか、陣平くんが大丈夫って言えば大丈夫な気がしてきた」
「だろ?ほら、食おうぜ。腹減った」
「うん!」
今のわたしの感情も情緒も、ジェットコースターみたいに激しい。
あれほど、陣平くんを救うと心に何度も誓ってきたのに、いざ日が迫ると怖い。怖くて、たまらない。
わたしの今見てるこの日常が、全部消えてしまうんじゃないか。どうしても、そんな不安がよぎる。
絶対に大丈夫。7日を過ぎて8日も陣平くんと生きてる!
と、根拠のない自信で笑顔になれるほどわたしは強くはなかった。