第46章 キスと告白と
そう。
キスをされただけが原因なら、わたしがひたすらに謝るだけで済む話だけど、それに加えて佐藤さんとの関係でモヤモヤしている部分があって…
そこがこの問題のややこしいところなの。
両方がそれぞれ違う人からアプローチされるなんて、そんなドラマじゃあるまいし…
そんな風にブツブツと言いながらランチを口に運んでいると、藍沢先生がいつものクールなテンションでわたしの熱くなった頭を一気に冷やすことを言ってのけた。
「…前から思ってたけど、萩原とあの彼氏の関係って、脆いよ。」
「…」
脆い
いざそう言葉にされると、わたしの箸を運ぶ手がぴたりと止まる。
何となく、自分でも分かっていたから。
「普通、互いのことを信じ合っていれば、別に他の奴がどんなアプローチしてこようが気にしないだろ」
「…信じてないわけじゃないです。
脆いとか、わかってる。
自信がないだけなんです…」
「自信?」
「陣平くんにとって、わたしが唯一無二なんだという確固たる自信がない。
だから、すぐに不安になる。」
どんなに陣平くんがわたしに好きだと言ってくれても、自分に自信がないわたしはほんの少しのことで不安になってしまう。
そんなこと、わかってるのに。
「まぁ、向こうは向こうでお前のその隙だらけのところが不安なんだろうな」
「隙だらけ…」
「キスされた相手にそんな相談して、隙だらけ」
「あっ、藍沢先生が聞き出すから!」
完全に藍沢先生の手の内で転がされている自分に気づいたわたしが、言い返そうとガタッと立ち上がった時、先生のスクラブのポケットに入っているピッチが鳴った。
「藍沢です。
…わかりました。すぐに向かいます」
そう言ってすぐにピッチを切って立ち上がる先生。
どうやら患者さんの急変らしい。
「まぁ、救命実習もあと少しだろ?
国試と卒業試験、頑張れよ。」
そう言ってわたしの頭をくしゃっと撫でた藍沢先生は、小走りにカフェテリアを後にした。
「…気安く触らないでよ」
去っていく先生の後ろ姿に悪態をつきながら、その後ろ姿を陣平くんに重ねて見てた。
あの日、離してくれとわたしを拒絶して背を向けた陣平くんを。
このままじゃだめだ。そう思うのに、わたしには彼に連絡する勇気がなかったんだ…
*
*