第46章 キスと告白と
ふらつく足取りで休憩スペースに戻るとすでに藍沢先生の姿はなかった。
わたしの書きかけのノートに藍沢先生の字で
「さっきの話、本気だ。返事はいつでもいい」
そう書いてあるのが見えたけれど、わたしは何も考える事が出来ずにパタンとノートを閉じた。
国試の勉強なんて手につくはずもなく、放心状態で医局のベッドに横たわり、無理やり睡眠をとった後また朝が来た。
寝て、起きて、携帯を確認して見たけれど陣平くんからは特に何の連絡もない。
佐藤さんの病室に、まだいるんだろうか…
一晩中、そばにいたんだろうか
相変わらずそんな嫉妬心でおかしくなりそうだった。
そんな状態で、キビキビと動けるはずもなく実習中もミスを連発。
連日の疲れを心配されたわたしは、早退+明日は実習お休み。を言い渡されて病院から帰路についた。
陣平くんに、連絡したほうがいいのかな…
そう思いながらまた携帯を開くも、どうしても彼に電話をかける勇気も出ず。
もう陣平くんとの家に帰らないよ?!
なんて、啖呵を切ったことを激しく後悔しながら、わたしは数ヶ月ぶりに実家に泊まろうと、駅の改札を通った。
最寄駅から実家までの道を歩いていると、なんだか妙に懐かしい。
同棲を始めてからまだそんなに長い時間は経っていないはずなのに、まるで何年も帰っていなかったかのような気分になる。
ちょっと前までは、わたしの家といえばここだったのにな。
と、感情に浸りながら家の門を潜り、鍵を開けて玄関の扉を開いた。
「ただいまー」
「ミコト?!どうした?!」
リビングから顔を出したのはおそらく今日は非番なのだろう、姉だった。
ただいま。の返事が「おかえり」ではなく、「どうした?!」なんて、変なお姉ちゃん。
それだけ、わたしが実家に帰ってくるのが珍しいのだろう。
「んー?ちょっと、しばらく実家に泊まろうかなって思って。」
「…まさか…あの陣平の野郎、ミコトを悲しませるようなことしたのか…!?!」
と、見る見るうちに怒りのボルテージが上がっていく姉は、拳をグッッと握りながら今にも警視庁に殴り込みに行きそうな勢いだ。
「ち、違う違う!…なんて言うか…お互い…」
お姉ちゃんに理由を説明しようとした時、じわっと涙が溢れた。