第46章 キスと告白と
何も言い返せずに、ただ陣平くんの腕を掴んだまま黙るわたしに、陣平くんは変わらず低くて冷たい声で言う。
「離せよ」
「っ…陣平くんだって…佐藤さんのこと抱きしめてたくせに」
自分ばかり責められるのがだんだんと辛くなって、わたしはつい佐藤さんとのことを引き合いに出して陣平くんを睨んだ。
「なんだよ…それの当てつけか?」
「そうじゃない!でも、じゃあ何で抱きしめてたの?!ただの同僚にそこまでする?」
「お前こそ、ただの指導医とキスするのか?」
わたしたちのこのやり取りは平行線のまま全然交わらず、ついに陣平くんが長いため息を吐いた。
「…悪い。ちょっと頭冷やすわ……離してくれ」
「…離したら、わたしもう陣平くんとの家に帰らないかもしれないよ?」
そんなズルい賭けを提示した。
ただ、陣平くんに
抱きしめていたのは本意じゃなかった。
お前だけだ。
その言葉を聞きたかっただけなのに。
喧嘩したままどこかに行こうとする陣平くんを止めたくて、ズルい手を使って引き止めようとした。
そんなわたしの魂胆に靡くほど、陣平くんは浅はかではないらしい。
「…離してくれ」
もう、陣平くんとの家に帰らないよ?
そう言ったのに、変わらず陣平くんの口から出たのは拒絶の言葉だった。
頭が沸騰している彼に、これ以上何を言ってもどんな駆け引きをしても無駄だと悟ったわたしは、ゆっくりと陣平くんの腕を離した。
そして彼は、わたしの方を一度も振り返らないまま暗い病院の廊下を通り、佐藤さんの病室へと帰っていった。
その後ろ姿を見つめるわたしの瞳から、涙が一筋溢れたのに、陣平くんの指が拭ってくれることはなかったの…
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