第46章 キスと告白と
陣平くんが抱き締める女の子は、わたしだけだと鷹を括っていたのに。
そう思うと、また嫉妬の黒い感情が渦巻いて、ますます自分が嫌な女に思えた。
「…医者だって、ただの人間だからな。
患者に対して、色んな感情を抱くのは普通のことだ。」
藍沢先生はそう言いながら、わたしの頭をぽんっと撫でた。
慰めようとしてくれているのだろうか。
ぎこちなく触れる手が、妙にやさしく思えた。
「…藍沢先生は、こんな風に感情が揺さぶられること無さそうですよね。
いつも冷静だし…ちょっとのことでは動じなさそう」
「俺だって、ある」
「えぇ?本当に?どんなときですか?」
どんな難しい症例でも、常に冷静沈着。
藍沢先生が取り乱してるところなんて見たことないけど…
見当もつかないわたしに、藍沢先生は真っ直ぐ目を見つめながら言う。
「…今」
「いま?」
「まさに今、恋人の話を無理してる笑顔で話すお前を見て、気持ちが揺さぶられてる」
思っても見ない回答に、わたしは思考回路が停止した。
「どうして…」
「どうしてか、答えないとわからないのか?
国試の問題より、遥かに簡単だ」
「っ…」
それって、つまり…つまり
わたしの自惚とかじゃなければ、そのまま言葉通りの意味だとしたら
わたしの頭に浮かんだ回答の答え合わせをするかのように、藍沢先生が正解を提示した。