第46章 キスと告白と
「ありがとうございます…」
「元気無いな。何かあったのか」
「どうして、元気無いってわかるんですか」
わたし、そんなに負のオーラ出てた?!と焦りながら藍沢先生にもらったミルクティーの缶のプルタブを爪で引っ掻いた。
「…お前のこと、いつも見ているからな」
そう言いながら藍沢先生は、わたしから缶を奪うと代わりにプルタブを開けてくれた。
いつも見ているから。
その一言が何となく特別感を含んでいるように見えて一瞬ドキッとしたけど、よく考えたらこの人はわたしの指導医だ。
そりゃ、実習生のこと見てないといけない立場だしな…と瞬時に冷静になった。
「わたしの指導医ですもんね」
「…で、何があったんだ?」
「…別に何も?ただ、医者にあるまじき感情を持ってしまった自分に嫌悪感を抱いて…」
「医者にあるまじき感情?」
何だそれ。と言うように、藍沢先生は缶コーヒーを飲みながら首を傾げた。
「…今日運ばれてきた患者さん…あの、警察官の。
わたしの恋人の同僚なんです。
彼が付き添って、手を握っているのを見た時にすごくモヤモヤして…。
怪我してるのに。患者さんなのに。」
「そういうことか。
でも、ただの同僚なんだろ?」
「…さっき、病室で彼に好きだと言ってる声が聞こえてきたんです。
彼は、あの人を抱きしめてて…
どう言う意図で抱きしめたのかわからないけど…離れて!なんて言って割って入れるほど勇気も無くてこっそり逃げてきちゃいました」
無理して笑ってそう説明したけど、さっきの光景が脳内にフラッシュバックして、わたしはミルクティー缶を持つ手が震えた。