第46章 キスと告白と
救命ステーションの近くにある休憩スペース。
昼間は患者さんや付き添いの人で賑わっているそこは、夜は勤務している医師や看護師がたまに休憩を取るときに利用している。
医局で勉強するのもいいけど、夜は人通りが少ない分こっちの方が集中できるから、わたしも病院に泊まる日はここで勉強することが多い。
「…また間違えた。ここ、いつも間違える…」
そう言いながら、テキストにマーカーで線を引くと、力が強すぎたのかクシャッ…とテキストが歪んだ。
まるで、わたしの心みたいだ。
佐藤さんから好きって言われて、何で返したんだろう。
あの抱きしめてたのは、単に慰めるだけ?
あんな風に、わたし以外にも簡単に優しくするんだ。
そんな、醜い嫉妬心が渦巻いて、勉強なんて正直手につかない。
そんな自分が嫌で、お腹の底から大きなため息が漏れ出た。
「はぁぁ…」
「何やってるんだ、こんなところで」
突然後ろから声をかけられて、ビクッと身体を揺らしたわたし。
慌てて振り向くとそこに立っていたのは、ビニール袋を下げた藍沢先生だった。
「藍沢先生!何やってるんだって…勉強です。国試の」
「へぇ。…不正解ばかり」
「みっ、見ないでください」
バツ印ばかりに書かれたノートを咄嗟に隠すわたしの隣に、藍沢先生が腰掛けた。
そして、下げていたビニール袋から自分が飲む缶コーヒーと共にミルクティーの缶を取り出してわたしの前にコト…と置いた。