第45章 好きなの
松田side
処置が終わり、病室佐藤の手を握りながら佐藤の目が覚めるのをぼーっと待っていた。
夕方だった空は、まるでタイムリープでもしたのかと思うぐらいに、気づけば真っ暗で都会の夜景が目に入る。
俺が大嫌いだったはずの男が、佐藤を助けてくれた名医だとは皮肉なもんだ。
そう思いながら、眠る佐藤に声をかけた。
「撃たれるなら、俺のほうが良かったっつーの。
…あんたにでっかい借りが出来ちまった」
ため息混じりにそう溢した俺。
そんな時だった。
握っていた佐藤の手が、ぴくりと動いた気がした。
「…!!」
慌てて佐藤の顔を見ると、眉を動かしながら「ん…」と表情を歪めている。
「おい!わかるか?!しっかりしろ!」
「ん……ま…つだ…くん…」
朧げに目を開けた佐藤は、瞳に俺を捕らえた。
「わかるか?」
「私…そっか…撃たれて…」
「俺を庇って無茶しやがって…」
目を覚ましてすぐに悪態をつくどうしようもない俺に、佐藤はフッと笑いながら言った。
「そうね。松田くんなら、撃たれてもピンピンしてそうだものね。
…ずっと、ついててくれたの?」
「そりゃ、俺の責任でもあるしな。」
「手も…握っててくれたの?」
「…まぁな」
そう言われ、俺は思わず握っていたその手を離そうとしたが、佐藤が咄嗟にそれを捕まえた。
「離さないで」
「え…」
どうしてか分からずに佐藤の顔を見ると、佐藤は目に涙を浮かべながら身体を震わせていた。
「っ…ごめん。実は…ちょっと怖かったのよね…
撃たれて意識を失うとき、あぁ。死ぬんだ私…って思ったのは鮮明に覚えてて…」
カタカタと身体を震わせながら無理に笑う佐藤は、俺がいつも見ている男勝りな姿とは程遠く、か弱い女に見えた。
そして俺は、咄嗟にその肩を抱いて腕の中に引き寄せた。
「もう、大丈夫だから。
悪かったな…俺のせいで」
「っ…松田くんのせいじゃ…私が勝手に」
「いや。俺を庇ったんだから、俺のせい」
俺に抱きしめられた佐藤は、身体の震えは止まったものの、今度は逆にガチガチに固まって緊張しているように見えた。
そして、ポツリとつぶやいた。
「私、目が覚めて松田くんの顔見た時…安心した。
手、握ってくれてたんだと分かって、嬉しかった」