第45章 好きなの
病室に着き、ストレッチャーからベッドへと佐藤さんの身体を移すと、とりあえずはひと段落。
陣平くんはすぐ隣に置いてあった簡易椅子に腰掛けると、一瞬も迷うことなく佐藤さんの手を取って握った。
その姿に、わたしの胸がズキンと痛む。
陣平くんが、他の女の人の手を握っているところを見るのは初めてだったから。
「…では、何か異変があればナースコールで呼んでください。
行くぞ、萩原」
「…はい」
藍沢先生に言われ、そうだ。実習中だった…とハッと我に返ったわたしは、もやもやした気持ちを抱えつつも病室を出ようと背中を向けた。
「待った。」
そんなわたしと藍沢先生を、陣平くんは慌てて呼び止めた。
振り返って首を傾げると、陣平くんは藍沢先生に深々と頭を下げて言う。
「こいつのこと助けてくれて、ありがとうございました」
嘘みたいだと思った。
陣平くんが、こんなに素直に頭を下げて礼を言うなんて。
それに、藍沢先生のことは嫌いだったはずなのに、それを押し殺してでも佐藤さんを助けてもらったのが嬉しいのだろうか…
なんて、医者としてあるまじきモヤモヤした気持ちが渦巻いて、わたしは思わず陣平くんから目を逸らしてしまった。
やだ…
こんなこと、思う自分が最低で…
だけど、陣平くんが佐藤さんのことをすごくすごく大切そうにするのが、嫌だと思ってしまう。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、藍沢先生はわたしの方を横目で見た後、陣平くんに相変わらずクールに返事をした。
「医者として当然のことをしたまでです。
…では。」
そう言うと、藍沢先生はわたしの腕を引いて病室を出た。
佐藤さんと陣平くん、ふたりをのこして
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