第45章 好きなの
松田side
処置室の自動ドアが閉まり、処置中と言うランプが点灯したのを見た俺は、放心状態になりながら近くのベンチに力なく腰を下ろした。
張り詰めていた気が、一気に抜けて脱力したと言う方が正しい。
もっとも、佐藤が助かるかどうかはまだ分からないから、気を抜いている場合ではないのだが。
あの時、犯人の仲間は俺に向けてトリガーを引いた。
それを見た佐藤が、一目散に俺の元に駆け寄ってきて、まるで俺を庇うかのように身代わりになって銃弾を受けたのだ。
倒れ込んだ佐藤を受け止めた時、手にべっとりと付いた血を見てことの重大さに気づいた俺。
そこからはあまり良く覚えていねえ。
救急車に乗り込んで、佐藤の手を握って何度も名前を呼び続け、そうして救急車が到着した先にいたのはミコトだった。
救急車から出てきた俺を見て心底驚いたような、いや逆に安心したような、なんとも言えない顔をしたミコト。
けど俺は、ミコトを気遣う余裕なんて無くて、ひたすらストレッチャーに乗せられた佐藤に死ぬな…死ぬな…と心の中で繰り返していた。
それは、今も同じだ。
「俺を庇って…あいつは…」
ベンチの上に腰掛けてそうぽつりと呟いた時、俺の名前を呼ぶ声がした。
「松田くん!!!」
ふと見ると、話を聞きつけた目暮警部と白鳥刑事が大急ぎで俺の方へ駆け寄ってくるところだった。
「警部さん…」
「佐藤くんの容体は?!」
「…今、処置室に入ったばかりで何とも…」
そう言うと、2人は悔しそうに処置室と書かれたランプが点灯しているのを睨んだ。
「…俺のせいです。
俺が、もっと周りに注意していれば」
「…確かにそうだ。松田くん。君の捜査は危うい。
いつかこう言う事態になるのではないかと思っとったよ。」
目暮警部の言葉に反論の余地すらなく、俺は黙って下を向いた。
「だが、今そんなことを言っても仕方ない。
それに、部下の責任はワシの責任だ。
松田くん1人に背負わせるつもりはない。」
「警部さん…」
「今は、佐藤くんを信じて待とう。」
その言葉に頷いた俺と白鳥刑事は、そのまままた処置室前のベンチに腰を下ろし、処置中のランプが消えるのを今か今かと見つめていた…
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