第45章 好きなの
それでも俺は、まだ平然としながら一歩ずつ犯人との距離を詰めていく。
「だからあ、殺す前に射殺されるって言っただろ?安心しなって、人質さんは無事に助かるから。な?」
「っ…やってみろよ!俺が先にこいつを殺してやる!」
「っひぃっ…」
俺の挑発に乗るかのように、犯人はナイフを人質の女にさらに近づけた。
すると、とうとう限界が来たのか、人質になっていた女は恐怖のあまり気を失い、その場で立っていられず膝から崩れ落ちた。
「おっ!おい!!」
立てない、歩けない人質は犯人にとってただの足手まといだ。
焦った犯人の隙をついて、俺はそいつに駆け寄り持っているナイフを蹴り飛ばした。
ガッ…
「っ…!クソ!!」
武器を失った犯人は、いよいよ最終手段。
俺に向かって素手で殴りかかってきた。
が、待ってましたと言わんばかりに俺は犯人の腕を掴み、班長直伝の一本背負いで投げ飛ばす。
ドサッ…と鈍い音が響いて犯人が地面に倒れた時、
「かっ…確保ーーー!!」
周りにいた警察官が一斉に集まり、犯人は無事に確保された。
「ったく。手間かけさせやがって」
「ま、松田くん!」
「おう、早く手錠かけろよ」
「もう!いっつもこんな無茶ばかりするんだから!」
佐藤はそう小言を言いながらも、無事犯人は確保できたわけでそれ以上文句を言わず、自分の手錠を取り出して確保した犯人に輪をかけた。
「16時8分。被疑者逮捕。」
胸ポケットの携帯で時刻を確認した俺は、手錠をかけた犯人の腕を掴む。
「おら、とっとと行くぜ。犯人さんよぉ」
そう言って腕を引いて屋上のドアへと向かおうとした時、投降した犯人が不気味に笑った。
「刑事さん。まさか、犯人は俺1人だと思ってないか?」
「あぁ?」
何言ってんだテメェ。と、そいつを睨んだ瞬間、屋上に出来た野次馬の中から何かが飛び出した。
何だ?
まさか、仲間か…?!
そう思った次の瞬間、佐藤の叫び声が俺の耳に響いた。
「松田くん!!!危ない!!!」
そして
パァンッ…
破裂音が響いて、俺の鼻腔に血の匂いが香った気がした…
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