第45章 好きなの
立て篭もりが発生していると言う、米花町 センタービル前に俺たちを乗せたRX-7とパトカー数台が到着した。
「そもそも、交渉はSITの役割じゃねぇのかよ」
「あの被疑者、一人殺してるらしいのよ。
だから、一応殺人で一課のヤマってわけ」
「あっそう…」
佐藤とそんなやり取りをしながらエレベーターで屋上に上がってみると、もう既に人質を取った犯人を、警察が取り囲んでいるこの状況。
拡声器で他の刑事が必死に説得を呼びかけている。
「そんなことをしても、罪が重くなるだけだ。
まだ一人しか殺してないだろ?殺した人数が2人になれば、死刑になる確率も上がる。
冷静になっておとなしく投降しろ」
「うっ、うるせぇえ!!」
刑事の呼びかけには聞く耳を持たない犯人の男は人質の女にナイフの刃を突きつける。
「こりゃ、埒があかねえな」
ため息を吐きながらそう言った俺は犯人と人質を取り囲んでいる群れから一歩中へと進んだ。
「ちょっ…松田くん!?」
「犯人さんよぉ、わかってんのか?
今、お前の頭を四方八方から警察の銃撃隊が狙ってるんだぜ?」
そう言いながら、一歩、また一歩と犯人に近づいていく俺。
「なっ…何が言いたい!」
「だから、あんたがその女を刺そうとすればその前に、あんたの頭に風穴が開くってことだ。
つまりだ、結局あんたがその女を殺せる確率は1%もない。
今こうしてる時間が、無意味だって言ってんだよ」
「だっ…黙れ!!」
焦りながらナイフを人質の首元に突きつける犯人。
俺はお構いなしにまた犯人に一歩ずつ近づいていく。
「あんたのその無意味な立て篭もり劇場のおかげで、俺は今日も残業確定。っんとに勘弁してくれよな…
今日こそは彼女の美味い晩飯食えるって思ってたのによぉ」
「来るな…!こいつを殺すぞ!?」
「やっ…やめて!来ないで!殺される!」
そう言いながら、首筋にナイフを添わせる犯人に、人質になっている女も命の危険を感じたのか俺にこれ以上犯人を刺激しないでと懇願してくる。