第45章 好きなの
同じ頃
米花中央病院 救命センター
「疲れたー!!」
朝から、ドクターヘリ要請2件に救急搬送3件。
1分1秒を争う重篤な患者が次々と運ばれてきて、文字通り、救命センターはまさに戦場だ。
ようやく波が落ち着いて、3時のおやつの時間帯に遅めのランチ。
「わたし、救命だけは絶対無理…」
と、ぽつりと呟きながら、医局の机でコンビニで買ってきたおにぎりを開けた。
一緒に休憩に入った女医がそんなわたしを見て笑いながら言う。
「そんなこと言うと、藍沢先生に叱られるわよ?
あなたの指導医でしょ?」
「あぁ…そういえば藍沢先生って、前は救命にいたんですよね?」
「ええ。救命のエースだった。
けど、救命で学べることは一通り覚えたからって、脳外科に転属したの」
「さすが…」
言いそう…藍沢先生…
と、妙に納得しながらおにぎりを頬張るわたし。
まあでも、一理あるかも。
救命に運ばれてくる患者は、科を問わず十人十色。
普通の研修だと3年かかって稼ぐ症例を、ここでは半年で稼げるだろう。
まさに、腕を上げるには一石二鳥の現場だ。
そんなことを考えながら、黙ってもぐもぐとおにぎりを頬張るわたしを見て、先輩は笑いながら言う。
「まぁ、実習生には過酷かもしれないけどね。
毎日国試の勉強もやりながらだし、体壊さないようにね」
「はい…!ありがとうございます。」
基本的にこの病院の医師は優しい人ばかりだ。
藍沢先生も、外向きは厳しいけどああ見えて面倒見いいところあるし。
タイムスリップする前に勤務していた東都大付属病院のときも、先輩には恵まれたな…と思い返してみればそう感じた。
「わ。もうこんな時間!
じゃあ、萩原さんもおにぎり食べたら回診付き合ってね!」
「は、はい!」
まだお昼休憩に入って10分しか経ってないんですけど…と、このブラックな職場に突っ込みつつも、わたしは残りのおにぎりを一気に口に頬張り、お茶で流し込み、慌てて先輩を追いかけて医局をあとにした。
これは多分、夜までバタバタコースだな…
家帰ってもどうせまた明日朝から実習だし、今日は医局に泊まって勉強しよう…
あとで陣平くんに連絡入れとかなきゃ。
そう思っていたけれど
この時は思いもしなかった。数時間後、陣平くんとこの病院で会うことになるとは
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