第40章 疑惑
その言葉を聞いて、俺は目を見開いて藍沢を見た。
藍沢はその視線を感じたのか、至って冷静に俺を見つめ返してくる。
「萩原さんとは、医局にいる間ずっとお二人で?」
「ええ、書類整理を手伝ってもらっていたので。
あ。でも途中で彼女が寝てしまって、医局のベッドに運んでしばらく彼女の寝顔を眺めた後は、またデスクに戻り一人で書類整理をしていました」
そんなことを、平然と表情少しも変えずに言ってのけるこの男。
は…?ずっとふたりでいた?
ベッドに運んだ?寝顔を眺めた?
何言ってんだこいつ…
ふつふつと嫉妬なのか怒りなのかわからない感情が湧いてくる俺に対し、藍沢は顔色ひとつ変えずに続けた。
「なるほど。つまり、今日は私のアリバイを確認しに来たということですか」
「…あなたが、被害者と訴訟問題を抱えていたと明らかになったので」
「あの訴訟は、和解が成立しています。
それに権田原さんとは弁護士を通じてしか接触できないようになっていましたし、今更個人間で何かやり取りをするようなことは一切ありません。」
「そうですか。まあ、一緒に居た萩原さんが寝てしまっていたとしても、途中で起きるかもしれない状況で誰かを殺害して戻るなんて、非現実的ね…。
わかりました。今日のところはこの辺で。ご協力ありがとうございました」
「いえ。」
結局、藍沢のアリバイはほぼ完璧で事情聴取は一旦完了。
しかも、一番の容疑者だった藍沢が白に近いとわかり、捜査は振り出しだ。
「ほら、松田くん。行くわよ」
そう言って会議室の扉を開いて、3人一緒に会議室の外に出た時
俺は咄嗟に藍沢の腕を掴んでまた会議室の中に引き入れた。
佐藤が驚いて一緒に中に入ろうとしたのを、俺はドアをバタリと閉めて阻止をする。
「ちょっと!松田くん!?何やってるの!開けなさい!」
ドンドンと佐藤が扉を叩く音が響く中、突然拉致られた藍沢はさぞ迷惑そうに眉をひそめた。
「まだなにか?」
まだなにか?って…
そうだよ。俺は聞きたいことが山ほどある。